道南民俗学研究会

虚飾を捨てた文章を書きたい。

日本は一つの民族? アイヌの歴史を直視していない見解

 最初に断っておくが、これは政治家・麻生氏に対する人格否定ではない。ゴルゴ13など国際情勢・軍事情勢にも明るい人でありながら自国の都合の悪い歴史に無知であることへの深い憂慮である。閣僚ということで自らが日本国の中央にあると認識しているのかもしれないが、あくまで国民の信託を得た代表者の一人にすぎない。

 

 人の貴賤は、その出自や、血筋、ましてや政権への発言力で決まるものではない。いやしくも政治家たる者、その職務に忠実であろうと欲すれば、国内外の歴史を正しく客観的に学ぶ姿勢が問われるのではないか。それは歴史学者になる為でない。過去の歴史を学び、その過ちたるところを問うことができなければ、失敗は繰り返され、国政を誤るからだ。

 

 この機会に認識を改めていただきたい。ヤマトではない民族も、この国にいて、ヤマトから搾取された時代があったことを。決して全ての国内の民族・部族が国譲りと言う言葉で表される平和的な権力の移譲をしたわけではない。むしろ天津神に対する国津神には、虐げられ、奪われたという一面もあったのである。単に土地の話をしているのではない。

 

 かくいう私も、基本的にはヤマトの民族であろうと思う。先祖をたどればマツロワヌ民エミシやアイヌの血筋を受けている可能性はあるが、はきっりとはわからない。8代前の父方の祖先が既に明治初期に北海道にいて、公的機関に役職付きで勤務していたことからは和人としてアイヌを搾取した側だった可能性もある。また、道南という土地は15世紀から和人が流入している地であるので、祖先はアイヌとは接触していなかった可能性もあり憶測の域を出ない。

 しかし祖先は9代前で512人にもなるのである。その中に、例えばアイヌの血があっても不思議ではない。当時アイヌの血筋を受けていて、なお、外見が和人に近い一部の者は函館や小樽・札幌、東京などへと出て和人として生き、アイヌの出自を隠したという事情もある。むしろアイヌの親が子の幸せを願い、アイヌの出自を隠すように諭したのである。

 

 それが不勉強のせいであれ、日本は一つの民族という事実と異なる発言には胸をかきむしられる思いを感じる。この際に国内の非ヤマト民族が歴史の中で受けてきた苦しみをしっかり学習していただきたい。でなければ、社会的弱者が苦しめられ続ける負の政治的構造は未来も変わらない。なお、これは北海道に暮らす民俗学者として沈黙が許されない指摘である。