道南民俗学研究会

虚飾を捨てた文章を書きたい。

《息抜き》銭湯の洗い場にて

 8月末であるが例年にない暑さを感じさせる日が続いている。それはコロナ太りやマスクのせいもあるが、ひょっとして社会全体が緊張状態を維持していることから生じる息苦しさもあるのではないだろうか。
 そんな中、安倍さんが退陣する見込みとなった。代わりは誰がいるのかという声も一部から聞こえるが、どうだろうか。そして指導者に求められる資質が国際的に変化するのではという予感がある。 

 さて、本日8月30日から大河ドラマ麒麟が来る」が再開となった。今年はアマビエやら、ガネーシャ(夢をかなえるゾウ4)やら、神獣・妖怪の当たり年なのかもしれないが、まさに御政道が刷新されることを天地神明に祈念する。
 今回の記事は、以前におふざけで書いた御話としたい。何というか今、思ったけれど、実利性0でも笑いで勝負するブログって、もっとあってもいいかもしれない。

 銭湯の洗い場にて


 私が髪を洗っていると足先に水がかかってくる。不思議に思って隣りを見ると老人が桶で水を肩から掛けている。私が「すいません」と小声で言うと、向こう隣りにいる若者が「爺さん、そういうのは向こうの隅でやってくれよ。冷たいのにびっくりするべや」と強い口調で言った。

 私がそういう言い方はどうかと思い老人の方を見ると彼は私を制し「失礼をかけしましたね」と若者に潔く謝った。老人の左脇腹に傷が見えた。大手術の痕だろうか。

 若者は「湯冷めしない内に上がれ」と言い捨て、出入り口の方に向かった。何様のつもりなのか。タオルをムチの様にして体の水滴を拭いている。それはいいとして、私の目に水が飛んでくる。

 私が「君」と言って互いに目が合った時、190㎝はあろうかという大男がぬっと浴場に入ってきた。ふいにムチと化していたタオルが大男の胸倉に当たり、小気味よい音を立てた。

 大男は微動だにせず若者を見据えている。若者の動揺が手に取るほどに私にはわかった。いざとなったら止めようと思い、大男に「落ち着きなさい」と私が言おうとすると、

 不意に「マサ、手を出すんじゃねえ」という凄みのある声が聞こえてきた。それが老人の声であることは明白だった...まさか、どこかの親分?
 若者は出入り口を大男に塞がれ、行き所もなく、すぐそばにあった水風呂に飛び込んだ。水しぶきが派手に上がった。

 一部始終を静かに見ていた子供が「志村けんのコントみたいだね、お兄さん湯冷めしないでね」と言った。誰ともなく笑い始め、浴場の中に笑いが響いた。

 湯から上がり、私が併設の食堂でかき氷を食べていると、その若者が来た。彼はマスターに「鍋焼きうどん一つ」と注文し、目が合った私に軽く会釈した。
 
 ※飲食店等の日常への回復および稀代のコメディアン・志村けんさんのご冥福をお祈り申し上げます。

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画像はプレスリリースより