道南民俗学研究会

虚飾を捨てた文章を書きたい。

⑥美の妙薬と内部空洞土偶の謎

 先日、平安前期に生きた菅原道真公と言う人物の生涯を追ったテレビ番組を見ていると民の困窮を慮り上司に強い具申をした信念の学者だということがわかり感銘を受けました。
 それが故に帝から信任を受け異例の出世をすること、そして過分のことと辞職を申し出るもかなわず、案の定左遷されたことを知りました。なお、罪人に近い扱いとなった彼への妻子からの贈り物の一つに昆布があったというシーンがありました。

 シルクロードとは、文字通り「絹の交易路」を意味しますが、シルクロード上を旅した交易物は絹に限らず貴金属、香辛料、馬・・・また情報などの無形物も挙げられます。
 日本でも沿岸部と山間部を結ぶ塩の道、日本海と京都を結ぶ鯖街道が知られていますが、灯台下暗し「昆布ロード」なるものが存在していたことを私は最近になって知りました。
 当地にある昆布醤油は私の好物の一つですが、昆布は日本料理の原点とも言われ、栄養成分のヨウ素は欠乏すれば内分泌異常を起こします。内陸に住む古代人は昆布の薬効成分を知っていたのでしょうか。とりわけ海草は豊かな髪量や、美容効果を連想させます。
 昆布の最上級品は今日でも高級和食料理店に卸され、1gあたり10円以上の値が付いています。水深3~5メートルに生えているものであれば縄文人は素潜りで、黒曜石の加工品などを用いた代用刃などを利用して採取していたと考えていいでしょう。

 さて次の写真は「カックー」という愛称のある土偶の告知物です。実物は全長約四十センチメートルで家庭菜園のじゃが芋畑から発掘されました。当地に類似品がなく、交易によって得た当時の最先端文明物だった可能性が濃厚です。そして、このカックーの発見地が最上級昆布の特産地です。
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 その構造は脚部に至るまで中は空洞、体表厚みは最小で2ミリメートル、両腕は欠損。制作は三千五百年前ほど前の縄文晩期。なお正面下方から見るにはわかりませんが部位の頭頂左右には一対の円形の穴があります。

 以前読んだ本によると、北海道の先住民であるアイヌ民族は捨てる物に故意に×印をつけたり、破損する風習があったとのことです。そうすることで、そのモノの魂は現世で与えられた役目を果たし帰るべき国に行くことができると信じられました。つまり、破損された状態で発見された土偶アイヌの慣習から読み解くと役割を終えた何かで、出土状況の調査から副葬品であったことが判明しています。
 でも、なぜ頭頂左右に一対の穴があるのかという疑問が依然として残ります。一対ということからは結髪が頭頂にあったのでしょうか。中に酒類などを注ぎ呪術に用いていたとの推理も成立します。そもそも内部の空洞は技術の継承を目的とした工芸品であり、実用の目的でない可能性も疑われます。
 また顔全体の輪郭や下顎の造作が当時、既に栽培されていた主食である栗の実を表現しているなら、自然霊や山海の恵みを具現化した偶像の可能性さえあります。そうです正確にアニミズムを理解することは実は困難なことなのです。
 あなたは、土偶の頭頂の一対の穴が一体どうしたと思うかもしれません。しかし、これは贅沢な問いです。何せ真相はなおも不明なのですから。縄文研究を通じ一万年と言う単位で人類史を俯瞰できる視点は望外の収穫です。