道南民俗学研究会

虚飾を捨てた文章を書きたい。

【寄稿】札苅にプロレスが来た!


 札苅という小さな町にプロレスの一行が来た。国道から山の手に少し入った小高い所に旧札苅小学校の体育館が見える。以前には円形の校舎が隣りにあった。すぐ側を「いさりび鉄道」が通っている。

 

 9月も半ばを過ぎると、夕方の5時半には一面に夜のとばりが降り始める。地元有志によりプロレスが企画された旧札苅小の体育館の照明の中で幻想的にリングが浮かび上がっている。そのリングの周りにはイスが3列ほど並べられていて、既に半分近くが埋まっている。

 体育館の前には屋台が出ていて焼き鳥やビール、B級ご当地グルメの「和牛コロッケ」も販売されていて、ミニサーカス小屋のような賑わいを演出している。私は屋台での買い物を済ませて改めて会場に入った。気が付くと周りのイスはほぼ満席になっている。小学生の男児や、ママさんが半数だろうか。

 試合が始まる前の余興として男の子が5,6人リングに上がった。子供たちは怖がりながらもレスラーに飛び掛かっていく。ヒーローになった気分なのか、リングから降りても興奮気味ではしゃいでいる。

 

 いよいよ試合が始まると田舎の興行とはいえ、レスラーの動きは躍動に満ちたものだった。頑強な男たちが「痛ってなー」と声を張り上げリングの上で技を競う。場外に落ちていった相手に、ひらりとトップロープを越えて強烈に体当たりを浴びせる。巻き込まれるような気配に観客は悲鳴を上げて逃げ回る。場外乱闘を間近で見ながら私もビールを片手に逃げられる準備だけはしていた。

 

 かくしてあっという間に過ぎた2時間。前列のママさんは去り行くレスラーに握手を求めていた。彼らのショーは成功の裡に幕を閉じた。まるで英雄が来て足早に去っていくが如き熱狂であった。

 帰路、道端に虫の音が響き、私は頬に秋祭りの頃の気配を感じた。その晩、私は心地よい酔いであった。聞くとレスラーの「カツオさん」が函館でちゃんこ鍋屋を経営しているとのこと。いつか行ってみよう。

 

 

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 画像はアメブロ「ぎゅ~っと和牛キーコの部屋」より

 道南リングは幼稚園などでも精力的に興行している。