道南民俗学研究会

虚飾を捨てた文章を書きたい。

郷土の風景②青葉茂る湯倉神社と発祥の謎

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  湯の川温泉街は函館空港から約10分ほどの距離にある。その温泉街の東の緑豊かな丘、電車通りと産業道路が交わる交通量の多い地点に湯倉(ゆくら)神社は建つ。別称はお薬師様。向かって神社の右脇に湯倉川が流れている。風水で言う吉相、四神相応の地。

 

名称 湯倉(ゆくら)神社、お薬師様

立地 函館市 市電「湯の川駅」から徒歩で約2分
御祭神 大国主命少彦名命倉稲魂命  (※元来は薬師如来を祀る)

 

創建 松前藩の調べによると1600年代初めには湯座に薬師如来を祀っていたとのこと。
御由緒  享保二(1453)年ころ、木こりが小高い丘の湿地帯に湯気が立ち昇っているのを発見。後に腕を痛め、この湧き湯で湯治。そのお礼に薬師如来を刻み、小さな祠を建てたことに由来。および湯の川温泉の始まり。~口承より~

 

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 明治の世なら知らず、今では湯倉神社のことをお薬師様と呼ぶ人はどれほどいるのか。令和の今日、皆無に近いと思われる。しかし、社歴からは、かつて薬師如来という医薬に関わる仏像が祀られていたことがわかる(江戸時代には湯倉社と呼ばれていたとのこと。)

 

 その薬師如来像も当初木こりが彫り祠に安置したとする木製のものと、それから約200年後の1654年に松前藩により奉納された金製像の二体がある(後者の像は現存している。)

 

 湯の川の語源はアイヌ語で「ユ・ペツ」、湯の流れる川という意味。・・・ということは、この地でお湯が湧くということは、アイヌの人々は和人が入植する以前から知っていたことを示している。

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(↑かつて、この場所に湯気が立ち上る湧水があったとの宮司さんの御話。)

 冒頭に、1453年ころ、きこりが湯を発見と記したが、1457年には道南を舞台に勢力関係の変化からアイヌと和人との闘い、コマシャインの戦いが起こっている。つまり、1453年は発見というより和人の当地への入植年代と考えるべきであろう。

 

 したがって当地は、相当に古い年代から川の端に湯が湧くと同時に、東側に川の流れる緩やかな高台という地形的特性から、アイヌの人々にとっても祈りの場ー聖地(チャシ)であった可能性が十分にある。

 

 源泉から採った湯を神社に奉納する「献湯式」が現在でも、八月の花火大会の日に行われている。

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境内は緑がすがすがしく、一息つける雰囲気。

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 亀は作りものです。
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 緑が多い割に明るい雰囲気なのは天候のせいだけではなく、聖域としての祈りが捧げられ続けているからではないかと感じます。このご神木は樹齢約370年であり、松前藩から薬師如来像が奉納された時期と植樹の推定時期が一致している。

 

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 本殿右手の稲荷神社も木漏れ日に包まれています。

 

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 社務所には、函館マラソンや花火大会などの函館らしいポスターが。一番右側のポスターは温泉につかっている熱帯植物園の猿。「なまらあずましい」とは、「とてもゆっくりできる」という意味。

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 おみくじも豊富で、イカの他に、大国主命にまつわるウサギや、五か国語対応のものまで。そういえば、SNSの影響か外国人の参拝客も多く見受けられます。

 

 時間がある方は、電車で一駅分、湯の川温泉街までを歩いてみるのもおすすめ。

 

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 近くの0298(お肉屋)で総菜を買い、電車通りをぶらぶら歩くこと10分たらず。

 

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花屋さんのようです。


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 夏詣で。一年を通じて神社が身近な場所であるようにという願いから作った言葉とのこと。

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 明治時代には湯量豊富な源泉を掘り当て、交通の利便性が高まったことにより、一帯は歓楽街へと変貌。お団子屋さんも三軒程あったそうです。

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  電車は七時以降は谷地頭方面行きと、函館どっく前行きを合わせて約五分間隔で五稜郭方面に向けて運行しています。市電は観光客はもとより、函館市民の足として機能しています。歴史的には東北・北海道で最も長い歴史を有しています。

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  近くには足湯もあります。湯の川温泉街は住宅街と隣接し合い明瞭な区画がある訳ではありませんが、それらしい雰囲気があります。北海道の六月は風薫る初夏という感じです。